鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニア Inguinal Hernia

鼠経ヘルニア

鼠経ヘルニア

鼠径ヘルニアとは、通常は腹部の内側で内臓を支えている筋肉の壁(腹壁)の筋力が低下し、低下した部分から内臓や腸が下腹部や太腿に飛び出す疾患です。通称、脱腸とも言われます。中高年の男性や乳幼児が発症しやすく、患者様の80~90%は男性ですが、妊娠などによって女性が発症することも少なくありません。自然治癒やお薬による治療は期待できず、治すためには手術が不可欠です。

鼠径部ヘルニアになりやすい人

違和感 腹部が張ったような感覚、鼠径部(太腿の付け根部分)の違和感が起こる。
膨らみ 太腿の付け根部分に柔らかい膨らみ・こぶ・腫れ・できものができる。
痛み 太腿の付け根部分に時々差し込むような痛みが生じる。特に、立ち作業の際に痛みが起こる。
押すと無くなる 腹部の腫れや膨らみは、手で押したり、仰向けになると無くなる。
動作時に起こる 腹部に力を入れる際や立ち上がる際に、痛み・違和感・つっぱり感が起こる。
陰嚢の腫れ 陰嚢(特に片方の陰嚢)で膨らみや腫れが起こる。

鼠径部の痛みや膨らみ、不快感などの症状が起こります。膨らみのサイズは、鶏卵やピンポン玉くらいと言われる場合がありますが、個人差があり次第に巨大化していきます。男性では陰嚢の症状が起こる場合もあります。膨らみは、重いものを持ち上げる際や、立ち上がる際など、腹部に力が入ると生じるという特徴があります。なお、手で押し込んだり、仰向けの状態になると膨らみは無くなることがほとんどで、自覚はあるものの放っておいたままの方が多くいらっしゃいます。発症初期は痛みが生じないこともよくあります。ヘルニアは自然に治ることがないため、お悩みの症状があれば、なるべく早めに当院までご相談ください。早期治療によって負担が少なく完治が見込めます。

鼠経ヘルニアの原因

先天性の原因と後天性の原因に分けられます。後天性の原因には、生活習慣・加齢・疾患・仕事・妊娠などが挙げられます。子どもの場合、先天性のものが多いです。

通常は腹部の内側にある腸や腹膜が脱出するのは何故でしょうか?よくある原因としては、加齢に伴って組織や内臓を支える筋肉や筋膜が弱まることが挙げられます。大腿の付け根付近には、筒状の鼠径管が筋膜を貫通しています。鼠径管は、男性の場合は睾丸と繋がる精管(精子を届ける管)やそれを栄養する血管、女性の場合は子宮を支える靭帯を守っています。加齢によって筋膜などが衰えると、鼠径管やその周りの筋肉層に空間が生じます。そのような状態で腹部に力が加わると、拡大した空間から腸や腹膜の一部が飛び出して、鼠径ヘルニアを発症します。このような理由から、力仕事や立ち仕事、運動、便秘、喘息、排尿障害などによって日頃から腹部に力を入れる動作が多い方は発症しやすいと言われています。また、女性の場合、妊娠によって起こることもあります。

鼠経ヘルニアになりやすい人の特徴

肥満

皮下脂肪や内臓脂肪によって腹部に力が入りやすくなるため、発症しやすくなります。

高齢

加齢に伴って筋力が低下すると発症しやすくなります。

立ち仕事など生活習慣

スポーツ選手、運動やトレーニングの習慣がある方、立ち仕事が中心の方も発症しやすいです。

妊娠

妊娠によって10kg程度まで膨張した子宮を腹筋で支えなければならないため、妊娠中あるいは妊娠後に起こることが多いです。

喘息

喘息によって頻繁に咳をすることで、腹部に力が入ることが多くなり、発症リスクが上がります。

また、肺炎やくしゃみ、喫煙習慣なども原因となり得ます。

便秘・排尿障害

いずれも強くいきむことで腹部に力が加わり、発症リスクが上がります。

かんとん(嵌頓)

かんとん(嵌頓)

ヘルニアの穴に腸が嵌って元に戻らなくなった状態です。腸が嵌ることで血流が低下し、腸壊死に繋がる恐れがあり、最悪のケースでは命を落とすリスクもあります。このため緊急手術が必要です。痛みが生じないヘルニアでも嵌頓状態になる場合があるため、鼠径ヘルニアを放っておくことはやめましょう。

鼠径ヘルニアは、症状が起こった時点で手術を受けるべきです。その理由は、鼠径部の痛みや膨らみを放っておくと、徐々に症状が悪化して嵌頓状態となり、日常生活に影響が及ぶのみならず、最悪のケースでは、腸管壊死から穿孔による腹膜炎や敗血症となり、命を落とすリスクもあるためです。嵌頓状態が長引くと、ヘルニアの穴に嵌った腸の血流が低下し、徐々に壊死して腸で穿孔が起こります。そして、生じた穴から腸の内容物が流出すると、腹部の内側で炎症が起こり、腹膜炎に繋がります。腹膜炎が生じると、腹部全体で強い痛みが起こり、吐き気・嘔吐などの症状も現れます。場合によっては敗血症を合併し、血圧低下によってショック状態になる恐れもあり、緊急手術を受けないと命を落とすリスクがあります。
そのため、鼠径ヘルニアは嵌頓状態になる前に治療を受けることが非常に大切です。嵌頓になる前なら、日帰り手術で治療できることが多いため、なるべく早めにご相談ください。

鼠経ヘルニアの治療法

鼠径ヘルニアは、自然治癒やお薬による治療は期待できず、治すためには手術が不可欠です。診断を受けた時点で手術を受けることをお勧めします。なお、脱腸帯やヘルニアバンドなどの器具で膨らみを抑えても、根本的な治療とはなりません。
手術では、飛び出した腸を腹部の適切な場所に戻し、医療用のメッシュで飛び出した穴(筋肉の隙間)を塞ぎます(メッシュリペア法)。子どもにはこの方法を行わない場合もありますが、大人はメッシュを使用しないと再発しやすいため、基本的にはメッシュリペア法で手術を行います。

鼠経ヘルニアの治療法

メッシュリペア法は2種類に大別されます。1つは、患部の鼠径部を切開し、腹部の外からメッシュを入れる鼠径部切開手術です。旧来法とも呼ばれ、数十年前から行われている方法です。使用するメッシュによって術式はさらに細分化されますが、平均して5~6cmの傷が生じます。

もう1つは、腹腔鏡を使う腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術です。3~5mmの傷を3箇所作り、手術用鉗子とカメラを使って腹部の中からメッシュリペアを実施します。傷が最小限で済み、手術による身体への負担が軽減するため、早いタイミングでお仕事を再開できると考えられています。また、腹腔鏡の使用によって、腹腔内からヘルニアの穴(ヘルニア門)の位置がはっきりするため、メッシュを適切ない位置に十分な範囲できれいに敷くことができます。当院では、患者様になるべく負担をかけないようにするため、腹腔鏡手術を実施しております。

過去にはどちらの手術方法が適しているのか頻繁に議論されていましたが、昨今のガイドラインによると、できる限り腹腔鏡手術を行うよう提唱されています。なお、鼠径ヘルニアだけでなく様々な腹部手術で、直接切開法ではなく腹腔鏡手術を選ぶように変わってきています(ロボット手術も広義では腹腔鏡手術に当てはまります)。これは、患者様にとってより安全性が高く身体への負担が少ない手術を目指し続けてきたことで、医師の技術向上と医療機器の向上に繋がったからだと考えられます。一方で、腹腔鏡手術には、多数の医療スタッフと、腹腔鏡装置や全身麻酔器といった大掛かりな設備を準備しなければならないという難点もあります。当院では、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術を行う体制を整えております。

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